夫婦登山のブログ

アラフィフ登山初心者夫婦の山遊びの記録です

双六岳で転倒、そして骨折<下山中に足首骨折>

一泊二日の、楽しい小屋泊登山。

今までたくさん行った山旅の中でも、今回の双六岳が一番美しく、ここにこれて良かったと思える場所だった。

初日は曇天ということもあり、気温で体力が消耗するようなこともなく、多くの人が「キツイ」という双六岳までの行程を我々夫婦が無事にたどりつけるのかと心配していたが、なんなく双六小屋までたどりつくことができた。

翌朝は、暗い中からヘッドライトをつけて双六岳の「天空の滑走路」を目指す。
登る途中、徐々に焼けてくる東の空が美しい。

そして天空の滑走路で眺める朝日。

 

ほんとうにここに来られて良かった。
槍ヶ岳をここまで近くに感じたことはない。

 

スマホのズームを使用した圧縮効果で、大きな槍ヶ岳をバックに歩く妻をとらえることができた。
最高の映像が撮れたな。
最高の双六岳を楽しみ、あとは下山するのみ。

山の谷間に見える双六山荘を振り返り、ほんとうに秘境だな。
人間の足はこんなところまで歩いてこられるんだなと、自分たちの力にも驚く。

行きは曇天で分からなかった、特等席の花見平を過ぎ、弓折乗越を過ぎ、無事に弓折岳も下り、鏡平山荘に到着。

今日は暑いので、行きは食べなかったかき氷を頂く。
宇治金時がうまい。

そして行きには拝めなかった、鏡池に映る逆さ槍ヶ岳も映像に収めることができた。
その後順調にシシウドヶ原まで下ってきた。

 

◾️転んでから

 

そしてシシウドヶ原をスルーして、すぐの下り斜面、ここでなぜか転んだ。

なぜ転んだのかは分からない。

大きな岩や、ザレたところもなく、木の根もなかったと思う。
が、倒れこむ瞬間に、足から変な音がしたような気がした。
これもはっきりと記憶にはないが、なにかに足首がはさまったまま、崖側に横向きに倒れこんだような気がする。

グギッ!

あっ、これはやばいかも。
強くひねってしまった。

痛みですぐに起き上がることもできず、妻が起こしてくれようとするのを、「ちょっと待って」と言い、自分のペースでゆっくりと立ち上がってみる。

なんとか立ち上がることはできた。
でも、すぐには歩けない。
足首をねんざしてしまったと思った。
でも、しばらくすると痛みは引いてきて、足を水平に保っていればそこまで痛くない。
トレッキングポールを杖代わりに、これならなんとか自力で歩いて下山できそう。

妻が持っていたテーピングで足を補強してくれた。
テーピングなんて自分は持っていなかった。
備えは必要だな。


 

 

通りがかりのおばさまが声をかけてくれる「心得ありますか?やってあげようか?」と。
ありがたい。

その後、何人もの登山者が声をかけてくれ、「テーピングあるよ」「痛み止めあるよ」「荷物持とうか?」「使い古しだけどこのサポーター使ってください」「湿布良ければ使ってください」「気をつけて頑張ってください」


 

とてもたくさんの人たちが躊躇なく声をかけてくれる。

「これって、見返りを期待しない、無償の愛だよな」なんてことを考えながら、人の優しさに触れ、励まされ、なんとか下っていく。

妻は私のザックからほとんどの荷物を取り出し、自分のザックに詰め込んでくれた。
この双六登山の序盤には、「ザックが重たいから調子悪い」などと言っていた妻が。

このひとつ前に行った爺ヶ岳の下山時、疲労でかなり足が痛くなっていた妻、その時に妻のザックから荷物をすべて自分のザックに移すという行動ができなかった自分がとても恥ずかしい。
だらしない。本当に後悔している。
自分はなにをやってるんだ。

こういうことをサラリとできてしまう妻はほんとうにかっこいい。
感謝しかない。

一歩一歩。

痛めたのは右足。
なので、下りで衝撃を与えるといけないかなと思い、最初のうちは段差を降りる際には、左足から降りていた。
でも、少しでも右足首が斜めや、正面ではない向きに曲がると痛みが走る。

人間の骨格というのは複雑にできているのか、左右の足を順序良く前へ出すには、後ろになった足の足首は少しひねられるんだというのが分かった。
左足から降りるには、右足首は少しねじらないといけない。

右足首の角度を変えないように段差を下るには、その右足から降りるしかない。
ということで、両手にトレッキングポールを持ち、ポールでしっかりと体重を支えつつ、右足を下ろしすぐにに左足を下ろす、のように下っていくとなんとか痛みもなく下っていくことができた。
ただ、普段の生活ではなんともない数センチ程度の段差でも、この足首はなかなか言うことを聞かない。

普通階段を降りる際は、右、左、右、と交互に一段ずつ降りるが、今の状態は、右左で一段、右左で一段、いつもの倍のスピードがかかる。

妻は私を気遣って「休憩しようか」と促してくれるが、休憩している時間はない。
このペースでは日が暮れてしまう。
それに、ペースがゆっくりなせいか、そこまで体力は消耗はしていない気がする。

ひとつ気がかりなのは水分が足らないこと。
こんなペースでの下山は想定していなかったので、残りの水分が少なくなってきている。
普段の生活ではあまり水分を摂取しない私。
一方、妻は頻繁にお茶を飲んだりする。
そんな妻が、私に水分を摂取させようと勧めてきて、自分は大丈夫と飲まない。
そんなのやめてくれ。

大げさかも知れないが、自分を生かすために妻が犠牲になるなんて、まっぴらだ。
これはどちらか一方が助かれば良いということではない。
二人一緒に無事に下山をすること。それができなければなんの意味もない。

それが我ら夫婦である意味だと思う。
お互いの事は気遣い、お互いが無事であって欲しいと願うが、その結果どちらかが欠けてしまっては意味がない。
2人でひとつ。

登りで、水量の多いチチブ沢を通って、涸れ沢を2個ぐらい通ってきた記憶があるが、その涸れ沢が三つもあったかな?と、道のりを遠く感じる。

トレッキングポールに全体重をかけるので、支える手のひらが痛くなってくる。
持っていたハンカチをクッション代わりに当てる。(数日後、ポールを支えていた両手のひらに水膨れができていました)

途中途中で休憩を取り、口を潤す程度に水分を口に含む。
妻は相変わらず要らないと拒む。
頼むから俺のためにも飲んでくれよ。

最悪の最悪は、沢の水を飲むしかないが、やっぱりちょっと嫌だな。
昔妻と2人で読んだ遭難日記が強烈に刷り込まれてしまっているから(沢の水を飲んだ遭難者のお尻から後日、寄生虫が湧いてきた)
こういう時のために、浄水器を買おうかなとも思った。


 

徐々に日が傾いてくる。

登山での遭難事故というのはこういうことで起こるのか。なんてことも思ったり。

ヘッドライトは持っているし、レインウェアもある。エマージェンシーシートもあるから、なんとかしのぐことはできるのではないか。


 


 


 

でも、少しずつ、登山道入り口の橋が近づいてきているのが見える。
なんとか日没前には下山できそうな気がするから、とにかく一歩一歩進むしかない。

自分のせいで、妻を危険にさらすわけにいかない。

途中、妻がザックを背負い直すのが見える。
絶対に重たいよね、そのザック。
ごめんねそんな思いをさせちゃって。

絶対に二人で無事に下山しよう。

日が陰ってきて少し不安になったのは、野生動物。
熊は日中もいるので、夜行性というわけではないと思うが、もうほとんどの人が下山し、人気のなくなった山奥に自分たちだけがまだいるというのは、やはり熊との遭遇率も高くなってしまうかと思い、熊鈴をしっかりと鳴らすようにする。

今の状態で熊に襲われたら、立ち向かう前に自らよろけて自滅してしまう。
きっとこれで熊が出ようものなら、妻は強い人なので私をかばってくれようとしてしまうだろう。
それで妻が傷つこうものなら、もう本当に後悔しかない。
こんな山にこなければ良かったと思ってしまう。
とにかく熊は出ませんように。

熊鈴をリンリン鳴らしながら歩く。


 

そうして登山道入り口までなんとか降りてきて、あとは平坦な道。

とはいうものの、この負傷した足首にとっては小石も強敵で、小石の上に乗って足首の角度が変わってしまうと痛みが走る。
なので、平坦でもなるべく石のないところを選んで歩く。

わさび平小屋までの平坦で、まっすぐな道。
段差の道よりは、多少ペースも上げて歩けるものの、とても長く感じる。
あとカーブを曲がれば小屋が見えてくるかな?
いや、見えてこない。

直前ですべての水分を飲み干してしまったので、わさび平小屋についたら水分補給をしたい。
そして時間は17時前。
ようやくわさび平小屋が見えた。

水分も欲しいし、なにか食べたい。
注文締め切りが17時までだとダメだからと、重たいザックを背負ったまま妻が小屋まで走ってくれる。
もう泣けてくる。なんて不甲斐ない自分。

注文はまだできると確認して、自分のザックを置いてまたこちらへ駆け寄ってきて、今度は私のザックをもって走っていく妻。
途中追い抜かれた若い男の子でさえ、普通に双六から降りてくるだけでも疲労困憊していたのに、ほぼ二人分の重量を担いで降りてきてくれた妻が走る。

私がだらしない時にはすごいパワーを発揮してくれる妻。
ほんとにありがたい。
この恩は必ず返します。

そしてようやく、わさび平小屋のテーブルに腰掛けることができた。
我々よりも遅くに到着したグループも数人。
ああ、まだ人がいるんだねと安堵した。
でも、もうだいぶ薄暗い。

普段はほぼ飲まないコーラをここではチョイス。
甘さと炭酸が体にしみる。うまい。
そして妻が注文してきてくれた、わさび平小屋名物のそうめん、美味しかった。
妻が頼んだラーメンはチャーシューが美味しかった。

さて、休憩もできて、水分補給もしっかりできた。
あと少し頑張ろう。

ここから駐車場入口までは舗装路も出て来て歩きやすいはず。
そう思っていたが、舗装路でも傾斜はある。
傾斜が少しでもあると足首の角度が変わって少し痛む。
それでもデコボコ道よりは全然歩きやすいので、なんとか辿り着けた。

そして駐車場へ続く道に到着したのは19時過ぎ。
でも、なんとか2人無事に下山することができた。
妻は私のことをよく頑張ったと言ってくれた。
いや、それ以上に妻が頑張ってくれた。
私は妻の頑張りに甘えていただけ。
本当にありがとう。
大変な思いをさせちゃったね。
ごめんね。

車に到着し、着替えを済ませ、いつもは自分の運転で帰るところを妻が運転してくれる。
骨折が左足だったら、運転まで妻に頼ることはなかったのに。
ここでもごめん。

登山からの帰り道では、いつも途中から車の中で寝てしまい、家に到着したタイミングで目を覚まし「魔法だ。もう家にいる」なんていう、そんな妻が好きなのだが、今日は最後まで妻に頼りっぱなし。

途中コンビニに寄ってロックアイスを買ってくれ、私の足を冷やす。
そこで初めてテーピングを外して自分の足を見た。

めちゃくちゃ腫れて、内出血してる。
表面に水泡がいくつか出来ていて、思っていた以上の見た目の派手さにちょっと衝撃を受けた。

まあ捻挫程度でしょうと思っていたので、帰って湿布貼って寝れば翌日も朝から会社に行けるわ、なんて軽く思っていましたが、なんだか見た目はだいぶ酷い。

最初は捻挫だとなめていた私も、見た目の衝撃に、ちょっと病院に行った方が良いかなと思い始め、妻の強い勧めもあり、とりあえず翌朝に病院に行くことにした。

そうして無事に家に辿り着き、私を車から降ろし、「あとは全部やっておくから、もうシャワーだけして寝てて」と言ってくれる妻。
シャワー後の私の足に湿布を貼ってくれ、たくさんの荷物を車から降ろし、洗濯もしてくれている妻。

 

【閲覧注意】!この後、怪我の画像が出ます!

ほんとに何から何まですみません。

私は死んでしまったわけではないので、例えとしては適当ではないかも知れませんが、

「災害で行方不明になった方を見つけだして、亡骸を家に連れて帰る。」
なんだか、これに似たような愛を感じた。

「自分の魂を家に連れて帰ってくれた」と。
感謝しかない。


ありがとう。